金(GOLD)について

金の価格を決める主要要因

金(GOLD)の価格は、多くの要因によって決まります。特に、需給バランス、マクロ経済、金融政策といったファクターが複雑に絡み合いながら、金市場の価格変動を引き起こします。本章では、それぞれの要因がどのように金価格に影響を与えるのかを詳しく解説します。

需給バランス

金の価格は、基本的には供給量と需要量のバランスによって決定されます。供給が増えれば価格は下落し、需要が増えれば価格は上昇するという市場原理が働きます。

金の採掘量・リサイクル供給

金の供給は主に鉱山からの採掘リサイクル供給によって成り立っています。

鉱山採掘
年間の採掘量は約3,000〜3,500トン程度であり、新規供給の大部分を占めます。しかし、鉱山開発には長い時間がかかり、新規鉱脈の発見や採掘コストの上昇などが供給量に影響を与えます。
リサイクル供給
宝飾品や産業用金の回収によるリサイクル供給も金市場に影響を及ぼします。金価格が高騰すると、売却する人が増えるため、リサイクル供給が増加し、価格上昇を抑える効果があります。

宝飾品・工業用途の需要

宝飾品需要
インドや中国では伝統的に金の装飾品の需要が高く、特に結婚シーズンや祝祭期間中には需要が増加します。
工業用途の需要
電子部品や医療機器に使われる金の需要も価格に影響を与えます。特に、半導体や宇宙産業などでの使用が増えると、金価格を押し上げる要因になります。

投資・投機による影響

投資需要
ETF(上場投資信託)や金地金、金貨などの投資需要が高まると、金価格は上昇します。特に、経済不安時には投資家が金を「安全資産」として買い増すため、価格が急騰することがあります。
投機筋の影響
ヘッジファンドや短期トレーダーによる投機的な取引も金価格の変動要因になります。特に、CFTC(米商品先物取引委員会)が発表する「投機筋のポジション」データは、金価格のトレンドを予測する重要な指標とされています。

マクロ経済と市場の影響

インフレ・デフレと金価格

金はインフレ(物価上昇)に対するヘッジ資産とみなされています。

インフレ時
通貨の価値が下がるため、実物資産である金の価値が相対的に上がる。
デフレ時
経済が停滞すると金の需要が減り、価格は下落しやすい。

米ドルとの逆相関(ドルインデックスの影響)

金価格と米ドルは逆相関の関係にあることが多いです。

ドル安 → 金価格上昇
米ドルの価値が下がると、相対的に金の価値が上がるため、価格が上昇する。
ドル高 → 金価格下落
ドルが強くなると、金の投資妙味が薄れるため、金価格は下がる。

このため、ドルインデックス(DXY)やFRB(米連邦準備制度)の金融政策は、金市場に大きな影響を与えます。

地政学的リスクと安全資産としての需要

金は「有事の金」とも呼ばれ、地政学的リスクが高まると価格が上昇する傾向があります。

戦争・テロ
国際的な紛争が起こると、金融市場が不安定になり、金が買われる。
金融危機
リーマン・ショックやコロナショックのような大規模な経済危機時には、投資家が金を安全資産として買い増すため、価格が急騰する。

金利と金融政策

米FRBや日銀の金利政策

中央銀行の金利政策は、金価格に大きな影響を与えます。特に米国のFRB(連邦準備制度)の政策金利が重要です。

金利引き上げ(タカ派)→ 金価格下落
金は利息を生まない資産のため、金利が上昇すると債券や預金の魅力が増し、金の価値は下がる。
金利引き下げ(ハト派)→ 金価格上昇
低金利政策が続くと、投資家が金を買いやすくなるため、価格が上昇する。

リアル金利(実質金利)が金価格に与える影響

金価格と強く相関するのは名目金利ではなく、実質金利(リアル金利)です。

  1. 実質金利 = 名目金利 – インフレ率
  2. 実質金利がマイナス(インフレが高い)になると、金価格は上昇しやすい。
  3. 実質金利がプラス(金利が高くインフレが低い)になると、金価格は下落しやすい。

QE(量的緩和)と金価格の関係

中央銀行が市場に資金を供給するQE(量的緩和)政策を行うと、金価格は上昇する傾向があります。

  1. QEにより市場に出回るお金が増えると、通貨の価値が下がり、金の価値が上がる。
  2. 2008年のリーマン・ショック後、FRBの大規模なQE政策により金価格は大きく上昇した。

まとめ

金の価格は、単純な需給バランスだけでなく、マクロ経済・金融政策・市場心理などの要因が複雑に絡み合って決まります。特に、中央銀行の金融政策や実質金利、地政学リスク、ドルの動向を注視することで、金価格のトレンドをより深く理解することができます。

次章では、金備蓄と金価格の関係について、各国の中央銀行の動向を踏まえて詳しく解説していきます。