金(GOLD)について
金備蓄と金価格の相関関係
金(GOLD)は、各国の中央銀行や投資家によって価値保存の手段として保有されています。そのため、金の備蓄量の変化は市場のセンチメントや価格に大きな影響を与えます。本章では、中央銀行の金購入・売却が金価格に与える影響、備蓄増減と市場心理の関係、過去の金備蓄と価格の推移について詳しく解説します。
中央銀行の金購入・売却が価格に与える影響
1990年代のイギリス政府による大量売却と価格下落
- 1999年、イギリス政府は大量の金を売却する決定を下しました(ゴードン・ブラウンの金売却)。
- 当時、金価格は約250ドル/オンスと歴史的な安値にあり、政府は資金を他の資産へ移すために金を売却しました。
- しかし、市場では「金の供給過多」が懸念され、金価格はさらに下落しました。
- 後に「史上最悪の金売却」として批判され、その後金価格は大きく上昇したため、売却を惜しむ声が多く聞かれました。
2008年リーマン・ショック後の各国の金購入増加
- 2008年のリーマン・ショック後、金融危機への対応として中央銀行が金の購入を増やしました。
- 2009年以降、IMFを含む各国の中央銀行は純買い手に転換し、金価格の上昇トレンドが始まりました。
- 米ドルやユーロの信用不安が高まり、各国は外貨準備の一部を金に移すことでリスク分散を図りました。
- 結果として、金価格は2011年に史上最高値の1,920ドル/オンスに到達しました。
近年の中国・ロシアによる金購入の影響
- 中国とロシアは、米ドル依存を減らすために積極的に金を購入しています。
- 中国は2023年までに金準備を2,000トン以上に増やし、世界最大の金生産国であると同時に、主要な金購入国になりました。
- ロシアはウクライナ侵攻に伴う経済制裁を受けた後、外貨準備の一部を金で保有する比率を増やすことで、金融リスクを軽減しました。
- これにより、地政学リスクの高まりとともに金価格が安定的に上昇する傾向が見られました。
金備蓄と市場のセンチメント
金備蓄増加が「金価格上昇期待」を生むメカニズム
- 中央銀行の金購入が続くと、市場では「金の需要が高まる」との期待が生まれます。
- これが金ETFや先物市場に波及し、投資家の買いが入りやすくなります。
- 例えば、中国やロシアの金購入が発表されると、短期的に金価格が上昇することが多いです。
金備蓄減少が「金価格下落リスク」を高める要因
- 中央銀行が金を売却する局面では、金価格が下落するリスクが高まります。
- 例えば、IMFが金を売却した際、一時的に金価格が下落することがありました。
- しかし、世界的な金需要が強い場合には、売却の影響が軽減されることもあります。
金融危機時の金備蓄戦略(例:スイスの金保有戦略)
- スイスは伝統的に金準備が豊富な国であり、通貨(スイスフラン)の信用維持のために金を保有しています。
- 金融危機時には、スイスフランが「安全資産」として買われるため、金と並行して注目されます。
- これは、「金を持つ国=経済的に安定」という市場の信頼を示す一例です。
金備蓄の変動と実際の価格推移
過去50年間の金備蓄データと金価格の相関分析
- 1970年代、金本位制の廃止後に金価格は変動しやすくなりました。
- 1980年代には、一時的な高騰の後、金価格は低迷しました(中央銀行の売却が影響)。
- 2000年代以降、中央銀行の金備蓄増加が金価格の上昇を支える要因となりました。
備蓄増加・減少と金先物市場の動き
- 金備蓄の増加 → 長期的な価格上昇圧力
- 金備蓄の減少 → 短期的な売り圧力(ただし市場の需給バランスによる)
2020年代の傾向(デジタルゴールドの台頭と金現物市場)
- 近年、「デジタルゴールド」と呼ばれるビットコインなどの仮想通貨が金の代替資産として注目されています。
- しかし、金は物理的資産であり、金融危機時には依然として高い信頼を維持しています。
- 特に、コロナショックやウクライナ戦争などの危機時には、金価格が急騰する傾向が見られました。
まとめ
中央銀行の金購入・売却は金価格に大きな影響を与える。
- 1999年のイギリスの金売却 → 金価格下落
- 2008年のリーマン・ショック後の金購入 → 金価格上昇
- 中国・ロシアの金購入 → 長期的な価格上昇トレンド
金備蓄は市場のセンチメントに影響を与える。
- 金購入が続くと「金価格上昇期待」が高まりやすい。
- 金売却が進むと「金価格下落リスク」が高まる。
過去50年間のデータを見ると、金備蓄の増加は長期的な金価格の上昇を支えてきた。2020年代は「デジタルゴールド」も注目されているが、現物金の重要性は依然として高い。
次章では、「今後の金価格と備蓄の見通し」について、世界経済の動向を踏まえて詳しく分析していきます。
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